【ねこまたぎ通信】

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 <縦並び社会・格差の源流に迫る>6

<縦並び社会・格差の源流に迫る>:命の値段

 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060411k0000e040091000c.html


縦並び社会・格差の源流に迫る:命の値段

 「ミリオンダラー・ベビー」。米バージニア州リッチモンドの主婦、ジェシーさん(28)は01年に出産した長女のエレナちゃん(5)をそう呼んでいる。
 早産だったため、生後ひと月ほど大学病院に入院した。請求された治療費や入院費の総額は約100万ドル(約1億1700万円)。信じられなかった。入っていた民間医療保険が出産もカバーしていることが分かり、250ドルで済んだ。
 スーパーで働く夫のサムさん(29)の給料と自分のパート代を合わせると年収は約4万8000ドル。米国の一般的な中間層の家庭だ。
 03年、不幸が襲う。サムさんが転んで右腕を骨折し、手術を受けた。2万6000ドル以上の請求がきた。夫が転職したばかりで今度は保険に入っていない。自己破産するしかなかった。
 「腕一本で破産ですよ。こんなことがごろごろある」。一家は負債の減免措置を受けたものの、計1万ドルを分割で返済しなければならない。
 米国には民間医療保険のほかに低所得者や高齢者向けの公的保険があるが、対象者の範囲が非常に狭い。人口2億9000万人のうち保険未加入者は4600万人にも上る。一方で、保険会社と民間病院が巨額の利益を上げる。同州の貧困層向けの病院に勤めるコナリー医師は「日本は米国の医療制度を模範にしようなどと決して考えないことだ」と警告する。
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 日本が世界に誇る皆保険制度が危うい。
 04年、規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が設置した官製市場民間開放委員会は「混合診療」の解禁を目指した。日本の健康保険制度では原則として、保険診療と自由診療を組み合わせた場合、医療費は全額自己負担になる。医療費の膨張を背景に、公的保険でカバーする範囲を狭め、自由診療の部分を増やそうという考え方だ。
 しかし国民健康保険料すら払えない人が急増する中、自由診療が増えると治療を受けられない人が出るおそれが強い。日本医師会は「国民皆保険の崩壊を招く」と反対したが、東京大病院など3病院と日本外科学会は04年秋、宮内議長に混合診療解禁を要望。医療界は一枚岩ではなかった。
 毎日新聞が入手した非公開議事要旨には、医師会の反対意見を弱めるための「作戦会議」の模様が記されている。「医師会にもっと大反対と言わせ(逆に医師会への)反対を盛り上げる」
 保険業界にとって混合診療の解禁はチャンスだ。「医療費はあと10兆円伸びる余地がある」。同会議の前身の総合規制改革会議では、委員からこんな発言があった。公的医療費が抑えられても自由診療を増やせば市場は大きくなる。同会議の事務局(28人)には医療保険に関連する企業から7人が派遣されている。04年末、混合診療の実質解禁が決まり、法案は国会で審議中だ。
 現場では自由診療の拡大へ向けた動きはすでに起きている。セコムグループの「セコム損保」は01年に自由診療保険を発売した。がん治療の保険適用外部分を高額でも全額保障し、患者の自己負担はない。この保険の「協定病院」は166病院に達し、国立病院機構の病院まで加わった。
 その神奈川病院(神奈川県秦野市)の市来嵜(いちきざき)潔院長は「手術費用が高くてもセコムが確実に治療費を払うから病院は安心」と語る。一方、重度心身障害者用の80床は看護師が一般病床より多く必要で、採算が合うとは言えない。院長は「経済効率だけを考えれば切り捨てられる医療が必ず出てくる」と顔を曇らせる。
 株式会社の病院経営も始まる。医療分野の構造改革特区第1号としてこの夏、横浜市に株式会社病院が開院する。
 この病院に認められたのは本人の細胞を培養して使う美容整形など特殊な分野の自由診療に限られる。しかし、規制改革・民間開放推進会議のメンバーが委員長を務める特区評価委員会はいっそうの緩和を要求している。「自由診療だけでは経営が成り立たない。保険診療も認めるべきだ」