【ねこまたぎ通信】

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 <縦並び社会・格差の源流に迫る>3

<縦並び社会・格差の源流に迫る>倒れるまで働け(毎日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060404-00000057-mai-soci


 昼過ぎ、夫はいつものように工場の遅番勤務に出かけた。帰りは決まって翌日の朝食の時間だ。「早く切り上げられないの」。尋ねる妻に「それができないんだ」とうつむいた。
 02年2月9日。内野健一さん(当時30歳)は愛知県の自動車工場で申送り書を仕上げた直後にいすから崩れ落ちる。午前4時過ぎ。意識は戻らなかった。00年に品質管理の班長に昇進後、年休も取れなくなる。亡くなる直前1カ月の残業は144時間余。「起きられない」と目覚ましを2個買った。
 「時間外業務」の解釈に隔たりがあり、今も労災と認定されていない。

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 先月半ば、厚生労働省労働基準局長名で「残業を月45時間以下とする」ことなどを事業主に指導するよう求める通達が出された。法的拘束力のないことを示す「努力義務」の表現が目立って増えている。これを見た現場の労働基準監督官は落胆した。「こんな指導にどこの会社が従うのか」
 省庁の通達は民間の自由を制限する「規制の象徴」として批判もある。
 同省は02年、リストラで増えた過労死過労自殺を防ぐ通達を出した。規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)のワーキンググループは昨年6月、同省の担当課長を呼び、02年通達について「事業主に対する強制力はございません」と明言させた。昨年9月の提言でも例に挙げ「拘束力がない旨を明示する必要がある」と主張した。
 02年通達をめぐっては、もう一つの動きがあった。一昨年8月、医師らでつくる厚労省の検討会が臨床データを基に報告書をまとめた。月の時間外労働が100時間を超えた場合、会社が労働者に医師の面接を受けさせる――。02年通達に盛り込まれた内容に法律で強制力を持たせる内容だ。
 しかし法制化を論議する審議会は最終段階で「労働者の申し出があった場合」とする条件を加えた。会社側委員の「時期尚早」「企業の負担が重い」という反対意見に配慮したためだ。
 元検討会委員の保原喜志夫・北海道大名誉教授は「自ら進んで残業するしかない中、本人の申告を面接条件にするのは非現実的すぎる。過労死防止の最後の一線を骨抜きにした」と憤る。
 会社側委員の激しい抵抗には背景がある。財界の目指す米国型の「ホワイトカラーエグゼンプション」。労働時間の規制をしない対象を管理職から「管理職手前」の社員にまで広げる狙いだ。労働基準監督官は「命に関わる労働基準法の根幹が危うい」と心配する。
 労働時間規制と並ぶ労働分野の規制緩和の柱に労働者派遣事業の解禁がある。これも財界の圧力にさらされてきた。
 派遣労働の業種拡大に向け、派遣法の大幅改正の審議入りを控えた90年代半ば。旧労働省事務次官に旧日経連から電話があった。「今さらあの先生でもないでしょう」。審議を担当する旧中央職業安定審議会の会長を替えるよう迫った。
 名指しされたのは「業種をむやみに広げると労働者の低賃金化を招く」として規制緩和路線と一線を画す高梨昌・信州大名誉教授。結局、高梨氏は法改正には直接関与しない旧雇用審議会の会長に「棚上げ」される。改正論議は財界主導で進み、製造現場への派遣も04年に解禁された。
 85年に初めて法律で認められた派遣労働者は今、250万人。この元次官は「当初は派遣労働の分野が無秩序状態になるのを避けるため、法律が必要という発想だったが(派遣法の改正を経て)こんなに増えるとは想定していなかった」と打ち明ける。
 景気回復の陰で、労働者の権利は弱められていく。労災認定された脳・心臓疾患死や疾病は年間300件前後で推移。自殺者3万人のうち労働者は4分の1を占める。
 内野さんの妻博子さん(36)は先月21日、彼岸の墓参を済ませ、幼い2人の子どもを夫の車に乗せてスキー場に向かった。「来週には休みを取るから。息子たちに雪を見せてやりたい」。夫はそう話していた。
毎日新聞) - 4月4日18時18分更新